コーヒーに塩を入れるという意外な起源
「Ca phe muoi(塩コーヒー)」は、1990年代のいつ頃か、かつての帝都であるHueで誕生しました。その誕生秘話はシンプルです。地元のコーヒー屋が、Vietnam(베트남 / 越南 / ベトナム)で標準的に使われていた(現在もそうですが)安価なロブスタ豆の強烈な風味をどうにか和らげようと試行錯誤していたのです。ロブスタ豆は木のような香りと渋みがあり、濃く淹れると容赦のない味がします。そこで誰かが塩を加えました。ほんの少し、カップにひとつまみ入れただけで、見事にうまくいったのです。塩キャラメルと同じように、ナトリウムが舌の苦味受容体を抑えることで、コーヒーの味が突然まろやかになり、甘みが増し、刺激が和らぎました。この飲み物はHueに定着し、過去20年かけてゆっくりと北上していきました。
現在でもHue (후에 / 顺化 / フエ)が本場であることに変わりはありませんが、HanoiやSaigonでも見かけることができます。たいていは、ベトナム中部にルーツを持つ人々が営む小さなコーヒーショップで提供されています。
作り方
作り方は至ってシンプルです。まずはベトナム式ドリッパー、つまりカップの上にのせる金属製の「phin(フィン)」を用意します。深煎りのロブスタ豆(中細挽き)をセットし、お湯(約90〜95℃)を注ぎ、3〜5分かけてゆっくりと抽出します。抽出している間に、大さじ2〜3杯の加糖練乳をカップに注ぎます。コーヒーが落ちきったら、全体をかき混ぜます。
塩は最後に登場します。淹れる人(あるいは、挑戦してみたいならあなた自身)が、ひとつまみ(小さじ1/4程度)の塩を直接カップに加えます。混ぜて、味わってみてください。ほとんどの人は塩味ではなく、そのまろやかさを感じるはずです。苦味が平坦になり、練乳の甘みが丸みを帯び、クリームが入っていないのにまるでクリーミーなコーヒーへと変化します。
バリエーションも存在します。お店によっては、phinの中のコーヒー粉に直接塩を混ぜることもあります。また、少量の熱湯で先に塩を溶かしておく人もいます。しかし、得られる効果は同じです。
なぜ美味しくなるのか(科学的根拠)
塩は、苦味成分が味蕾に届くのをブロックしてくれます。ロブスタ豆、特に安価なものには、クロロゲン酸などの刺激の強い成分が大量に含まれています。無糖のブラックコーヒーでは、これらの成分が味を支配します。加糖練乳を加えればある程度は隠せますが、完全ではありません。そこに塩を加えることで、苦味の感覚が徹底的に抑えられ、くどさを感じさせない、まるでデザートのような味わいのコーヒーになるのです。
これはVietnam特有のものではありません。北欧諸国、エチオピア、中東の一部では、何世紀にもわたってコーヒーにひとつまみの塩が加えられてきました。しかし、安価なロブスタ豆、たっぷりの練乳、そして塩を、小さくて濃厚な一杯に凝縮したVietnamのバージョンは、明らかに独自の進化を遂げたものと言えます。

写真:🇻🇳🇻🇳Nguyễn Tiến Thịnh 🇻🇳🇻🇳(Pexels)
Hueで味わえる場所
Tran Phu通り周辺やPerfume River(フオン川)近くの路地など、Hueの旧市街中心部には何十軒もの小さなコーヒーショップがあります。Nguyen Hue通りにあるCà Phê Muối Hương(文字通り「塩コーヒーのHuong」)は、本物の味を求めるなら外せない巡礼地です。店内は狭くて窮屈ですが、店主が急かすことはありません。コーヒーが抽出されるまで10〜15分ほど座って待つことになります。価格は30,000 VND(約1.20ドル)です。その近く、Tran Phu通りから少し入った細い路地にあるCà Phê Muối Anでもほぼ同じスタイルのコーヒーが楽しめ、こちらは観光客が少なめです。
もし[Imperial Citadel](/posts/imperial-citadel-thang-long-hanoi (하노이 / 河内 / ハノイ)-history)の近くに滞在しているなら、旧市街にあるDong Xuan Marketに相当する市場近くの細い路地を歩いてみてください。そこにある屋台のメニューにも、よく塩コーヒーが載っています。
HanoiとSaigonの場合
Hanoiでは、旧市街に向かい、店名に「Hue」や「muoi」が入っているお店を探してみてください。Tran Quoc Pagodaエリア周辺の路地裏や、Ba Dinh区に点在するCà Phê Muối Hà Nội(この全く同じ名前の店がいくつかあります)で飲むことができます。Hueほど一般的ではないため、どのコーヒーショップでも作ってくれるわけではありません。まずは店員に聞いてみましょう。
Saigon (사이공 / 西贡 / サイゴン)は、中北部からの移住者が多いため、さらに多くの選択肢があります。1区(Ben Thanh Market周辺やその路地)や3区にはいくつかのお店があります。Ngo Duc Ke通りにあるCà Phê Muối Xứ Huếは確実な選択肢です。こちらもサイズや場所によって異なりますが、価格は25,000〜40,000 VNDです。

写真:🇻🇳🇻🇳Nguyễn Tiến Thịnh 🇻🇳🇻🇳(Pexels)
他のコーヒーとの比較
Vietnamese coffee (베트남 커피 / 越南咖啡 / ベトナムコーヒー)のバリエーションの中で、「Ca phe muoi」がどのような位置づけになるのか気になるかもしれません。
- ベトナムコーヒー(Ca phe sua da (연유커피 / 越南冰咖啡 / ベトナムアイスコーヒー)):塩の入っていない、練乳入りのアイスコーヒー。より甘く、シンプルでストレートな味わい。日常的に飲まれる一杯です。
- エッグコーヒー(Ca phe trung (에그커피 / 蛋咖啡 / エッグコーヒー)):Hanoiの名物。卵黄と練乳を泡立ててホットコーヒーに注いだもの。濃厚でカスタードのようなクリーミーさがあります。観光客向けですが絶品です。塩コーヒーとは全く異なる味わいです。
- 塩コーヒー(Ca phe muoi):両者の中間的存在。エッグコーヒーよりも軽く、普通の「Ca phe sua da」よりも複雑な味わいで、慣れるまでは少し不思議に感じる甘じょっぱさが特徴です。
目隠しをして飲めば、ほとんどの人が何か「違和感」に気づくでしょう。もちろん、良い意味で。コーヒーが舌の上でより豊かに感じられ、刺激が少なくなります。塩が入っていると気づく人もいれば、気づかない人もいますが、誰もがもう一口飲みたくなるはずです。
実用的なアドバイス
塩コーヒーは、何度か飲むうちに好きになる味(acquired taste)です。まずは一度注文し、ゆっくりと味わいながら、そのまろやかさが自分の好みに合うか確かめてみてください。価格は購入する場所によって25,000〜40,000 VNDと、Vietnamのコーヒーとしては十分に予算内に収まります。ロブスタ豆のコクは好きだけれど、あの刺すような苦味は苦手という方には、まさにうってつけの一杯です。もし、より軽くてマイルドなコーヒーが好みなら、エッグコーヒーやシンプルなアイスの「Ca phe sua da」を選ぶのが無難でしょう。
最終更新 · May 29, 2026 · 独自取材、スポンサーなし。









